インターネットショッピングモール「楽天市場」を中心に、様々なサービスを提供している楽天株式会社は、ウィルPMのマネージャー向け研修を導入しました。研修を企画した執行役員 楽天市場営業第三部 部長の城戸(きど)氏、実際に受講したマネージャーの津田氏、清宮(せいみや)氏に、研修導入の背景と経緯、研修への評価、研修後の変化について詳しく伺いました。
研修導入前の2つの課題
城戸様の業務について教えてください。
執行役員として、営業部をマネジメントしています。楽天市場事業部には営業部が10部門あり、所属する社員数は450名です。私はそのうち6つの営業部、300名を統括しています。
ウィルPMの研修を導入した背景を教えてください。
楽天市場事業部は、現在、国内営業の強化と海外展開の推進に注力しています。しかし、その事業拡大のスピードに応じた人材育成ができていません。 当面の課題は、「社員の業務の標準化ができていないこと」と「結果だけで判断するマネジメントになりがちなこと」の2点です。ウィルPMの行動科学マネジメントは、この2つの課題を解決するために有効だと考え、今回、研修を実施しました。
「業務が標準化されていないこと」で起こる問題
課題についてお伺いします。
社員の業務内容とその標準化が必要な理由について教えてください。
社員の業務は、楽天市場にご出店いただいている店舗様の流通総額を増やす、つまり売上を上げるためのコンサルティングです。これには、広告の活用や楽天市場の各種企画への参加、楽天大学というコンサルティング型のセミナーの受講などの各種ご提案も含みます。国内営業の強化と海外展開の推進の成功には、この業務を標準化することによる、全体の底上げが欠かせません。
業務が標準化されていないと、何が問題なのですか?
いろいろありますが、2つ述べます。
まず、業績が属人的になるために、人事異動が難しくなることです。 業績の良い社員が異動すると、担当していた店舗様の売上だけでなく、所属していた部署の売上にも影響が出てしまいます。一方、業績の良くない社員の多くは、必要な能力を身に付けていないため、希望の部署への異動ができません。すると1つの部署に居続けることになり、仕事へのモチベーションを保ちにくくなります。
次 に、マネージメントの難易度が高くなることです。 今回、研修を受講したのは、社員を管理、育成するマネージャーです。彼らは、社員ひとりひとりの業績や能力に合わせたマネジメントをしているのですが、標準化されていない状況では、見なければいけない能力の幅に際限がなくなってしまいます。
「結果だけで判断するマネジメント」の影響
「結果だけで判断するマネジメントになりがちなこと」について、詳しく教えてください。
私は、マネージャーが、社員の管理、育成をするには、彼らの業績を見るだけではなく、コンディションを見る必要があり、そのためには、直接、ひとりひとりと顔を合わせる必要があると考えています。
しかし現在、それができていません。理由は、事業部の部門の下には47のグループがあり、これらを28名のマネージャーが管轄しているため、1人のマネージャーが複数のグループを兼務しているからです。
このような状況では、マネージャーが社員の近くにいることは、物理的に困難ですし、時間も十分に取ることができません。そのため、どうしても結果で判断するマネージメントになりがちです。また、社員は、仕事やプライベートについての相談や報告を、すぐに上司にすることができず、ストレスを感じるようになります。その結果、メンタル面で不調を抱えたり、プライベートで重大な悩みを抱えたり、いつのまにか転職先を決めていたり、といったことが起こります。
なぜウィルPMの研修を選択したのか
研修導入に至る経緯について教えてください。
2012年11月、常務との打ち合わせの際、マネジメントの話題になりました。私が「石田先生の書籍の手法を取り入れている」と言うと、「年末に実施する研修を、石田先生にお願いできないか」という話になり、常務がその場でフェイスブックを経由して、石田先生に直接メッセージを送りました。後日、営業の方に来ていただき、当社の要望を伝え、それに合わせた研修を年末に実施していただきました。
書籍を手にされたのはどうしてですか?
私がマネジメントに悩んでいた時に、人に薦められたからです。
私は2000年に入社したのですが、ほどなく、部下をマネジメントする役職に就きました。その当時は、私がすべての戦略を考え、その実現のために、部下に厳しい要求していました。「こうすれば人を育成できる」と考えていたからです。 しかし、辞めてしまうメンバーが出てきてしまうようになり、「なぜ、私の言うことを分かってもらえないのだろう?」、「どうして、私の思う通りに人が育たないのだろう?」と思い悩むようになりました。
その時に周りの人に薦められたのが、石田先生の「リーダーのためのとっておきのスキル」でした。この書籍に載っている手法は、精神論や感覚論ではなく、具体的で科学的でしたので、とても新鮮でした。この書籍との出会いをきっかけに、「自分のマネジメントを、全部ゼロからやり直したい」と思い、実際に書籍のマネジメント手法や考え方を取り入れ、部下の育成に集中したところ、戦略も戦術も以前より優れた内容になり、結果として業績が上ったのです。
この経験を通じて、業績の向上と部下の能力の向上は繋がっていることを体感し、今では、「人を育てることが、マネージャーの仕事の99%を占める」と考えるようになりました。
書籍のマネジメント手法を取り入れた結果、業績が向上したということですが、ではなぜ今回、ウィルPMのマネ―ジャー向け研修を導入されたのですか?
理由は2つあります。
1つは、事業が拡大し、私の管轄する部門が増え、マネージャーの育成に手を回すことができなくなったからです。先ほども申しましたが、私は現在、6つの部門、約300名の社員を統括しています。様々な業務を兼務しているだけでなく、移動も多いため、物理的にも時間的にも、人材育成だけに集中することができません。
もう1つは、業務の標準化ができなかったからです。実は以前、幾度となく業務の標準化に取り組んだことがあるのです。海外での展開を成功させる上で必要不可欠と考えているからです。しかし、そのために必要な「行動の因数分解」という概念が、社内に浸透しませんでした。「行動を因数分解しないこと」が社内で当たり前になっているため、この状況を内部から変えることは困難という結論に至りました。
ウィルPMの研修内容について
今回受講された研修について教えてください。
2日間にわたる研修でした。カリキュラムは次の通りです。
1.行動科学マネジメントとは |
2.『できない』→『できる』になるたった2つの方法 (1)やり方がわからない (2).継続の仕方がわからない |
3.行動分解力アップゲーム |
4.3つの理論の解説とワーク (1)ディスクレーショナリーエフォート (2)リインフォース (3)ABCモデル |
5.トータルリワード(非金銭的報酬)の活用方法 |
※トータルリワード(Total Reward)・・・リワードとは報酬のこと。社員の成長のためには、金銭的報酬だけでなく、非金銭的報酬を含む総合的な報酬を与えて動機付けする必要があるとする考え方。ウィルPMでは、トータルリワードと行動科学マネジメントを連動させることで、企業を短期間で成長する組織に変革する手法を確立している。
研修を実施された感想をお聞かせください。
私は、ファシリテーターとして参加したのですが、非常に素晴らしい内容でした。
まず、初日に見せていただいた映像コンテンツに「どれだけ裏切られても信じなさい」という言葉がありました。これは、私が普段マネジメントをする上で、核としている考え方ですので、「楽天グループの管理職全員に見せたい」と思うほど感動しました。
具体的な行動につながるものとしては、マネージャーが部下に指導する際にすぐに使用できる、「行動を因数分解する」という武器をいただけました。それから、マネージャーの強みと弱みを認識するための調査と、その結果にもとづくアクションプランを作成しました。今後、マネージャーが、どのような行動を取るのか、興味深いです。
受講された方からの声には、どのようなものがありましたか?
「今までの管理職向けの研修の中では、一番良かった」という声が多かったです。現場で研修の内容をどのように活用してるかについては、実際に受講したマネージャーの津田と清宮に、直接聞いてみてください。
研修受講者の声
ではここで、マネージャーの津田さんにお話を伺います。まず業務内容について教えてください。
楽天市場事業部で20名のマネジメントをしています。具体的な業務は、社員の数字やコンディションの把握、権限の委譲、客先への同行訪問などです。試行錯誤をしながら社員の育成に取り組んでいます。
研修を受講されていかがでしたか?
実は、4年前から行動科学を知っていました。「短期間で組織が変わる 行動科学マネジメント」という書籍を上司に薦められて読み、衝撃を受けて以来、マネジメントの指針にしていたのですが、実際に受講したところ、学ぶことが多いと思いました。
例えば、トップ営業マンの技術を因数分解するだけでなく、更に、MORSの法則(※)にもとづいて、数値化や明確化した行動まで落とし込んで教えるところまではしていませんでした。以前は、曖昧な基準で評価していたことに気づきました。
研修の内容をどのように使われましたか?
研修に参加して、社員とのワントゥワン・コミュニケーションの重要性を認識しましたので、受講後、1ヶ月で、全員と面談をしました。話の内容は、日々の業務についてではなく、趣味や休日の過ごし方といったプライベートなことや仕事に対する想いについてです。
その結果、打ち解けた雰囲気になり、社員が、仕事に対する本音を言ってくれるようになりました。社員に「キチンと見ている」ということが伝わったのだと分析しています。
現在、新たな取り組みとして、研修の内容を取り入れ、提案資料作成用のフレーム作りを進めています。新卒の社員は、技術や知識、経験が少ないため、提案資料の完成度が低く、その完成度も、人によってバラつきがあります。まずは彼らが一定のレベルの資料を作成できるようなフレームを完成させ、その後、浸透させていきたいと考えています。
※MORSの法則・・・ 行動科学マネジメントにおける「行動」の定義の仕方。行動とは、「M (Measured):計測できること」、「O (Obserable):観察できること」、「R (Reliable):信頼できること」、「S (Specific):明確化されていること」の4つの条件を備えている必要がある。この頭文字を取って「MORSの法則」と呼んでいる。
次に、清宮様にお伺いします。研修内容をどのように活用していますか?
私のグループには、私の下に、リーダーというプレイングマネージャーが2名います。彼らと、リーダーが期待されていることやその役割、あるべき姿について話し合い、「いつまでに何をするのか」というゴール設定をしました。
というのも、研修に参加し、今まで、彼らに対してプレイヤーとしての評価はしていたものの、リーダーとしての評価をしていないことに気付いたからです。今後は役割に応じた適切な評価をしていきます。
また、この話し合いで、「部下を育成するにあたり、どこまで具体的に指示をしていいのか分からない」など、彼らの抱えている悩みが分かりました。そこで、研修の資料を見せながら、部下の成熟段階によって受け止め方や理解力に違いがあるので、それに合わせて分かりやすく指示する必要があることを伝えました。
今後の目標は、1年以内に、私と同じ役割を担える人材を育てることです。
城戸様、津田様、清宮様、お忙しい中ありがとうございました。
取材協力:ソーシャルメディアデザイン