都心高額物件、タワー物件、大規模マンション、レジデンスなど、主に住宅関連の商品企画・コンセプト立案からプロモーションまでトータルにプロデュースする株式会社インサイト・ディレクション様は、ウィルPMのクリエイター育成プログラムを導入しました。代表取締役の井上氏に、プログラム導入の背景と経緯、導入後の変化などについて詳しく伺いました。
自分たちで取り入れてみたところ、社員の仕事ぶりが変わった
ウィルPMのプログラムを導入した経緯
2013年に、当社の取締役の人間が日経さんのビジネスセミナー「課長塾」で石田淳さんの「教える技術」という講座の存在を知ったのがきっかけでした。その後、私が石田さんの著作『教える技術』を読んで、「これは非常に面白いな」と感じました。そして「社員みんなで『教える技術』を読んで、行動科学について知ろう」というところから始めました。
次に、ウィルPMのコンサルタントの方をお招きして、2回セミナーで「行動科学とは何か?」を学びました。出席者は、経営陣からミドル層まで8人ほどでしたね。セミナーで学んだことをもとに、自分たちでチェックシートを作ったり……を始めました。
チェックシートを作って自分たちの作業プロセスを「見える化」する中で、数ヶ月で社員の仕事ぶりに成果が現れ始めました。例えば、行動分解の概念を知った中堅社員が、お客様へのプレゼンが非常に上手になっていたりしましたね。全社的に導入したいと感じたので、コンサルティングを依頼しました。2014年初めから2015年末まで、ウィルPMさんには約2年間指導していただきました。
「教える」という概念が存在しなかった。
導入前に抱えていた課題
当時は育成、特に若手の育成が課題でした。社内にいくつかの制作室を設けて、室長と部員の上下関係で仕事を進めていたのですが、若手が職場に定着しなかったり、一人前に成長するまでにかなり時間がかかるという問題がありました。教える側は「何をすればいいかわからない」「何を教えればいいかわからない」という問題を抱えていましたね。
当時の社内には、「私たちはクリエイターなのでマネジメントのプロではない」という考えがありました。「背中を見て覚えなさい」という考えが前提で、そもそも「教える」という概念が存在しなかったんです。これは、私たちの会社だけではなく、クリエイティブと呼ばれる業界の会社の多くが抱えている問題なのではないでしょうか。ただ、そんな状況を何とかしたいという思いがありましたね。
「再現性があり成果につながる行動」を洗い出してカードを作成
どのようなプログラムを導入されたのか?
クリエイター業務の標準化、キャリアステージの上げ方の「見える化」などをテーマにしたプログラムです。デザイナー、アシスタントがどのように仕事をして、どのようにキャリアステージを上げていくのか? 大きなフレームを私が洗い出し、プロセスの具体的な部分をウィルPMのコンサルタントの方々が洗い出してくれました。
具体的には、ウィルPMさんがアシスタント業務のようすを観察して、一緒に行動を分解したり……、トップデザイナーのデザイン業務を撮影して考え方・行動のしかたなどを分析して「成果につながるピンポイント行動」を一緒に見出したり……といった作業ですね。こういった作業を月に1回、3つのグループに分かれてワークショップ形式で行っていきました。
ワークショップを通じて、「再現性があり、成果につながるピンポイント行動」を整理していきました。最初はチェックシート形式の冊子を作成したのですが、社内で「チェックシートって、なんだか“やらされ感”があってイヤだね」という話になり、「だったらカード形式がいいんじゃないかな」ということで最終的にカード形式にまとまりました。
グループワークでは「こういう時に、こういう行動をして、実際に成果があった」という振り返りと行いながら、「自分たちの成果につながる行動は何か?」を洗い出していきました。だから、出来上がったカードは、言葉の表現なども含めて当社特有の風土が盛り込まれています。そこまで具体化したからこそ、実際に今も運用できるものになっているんだと思います。
行動分解の概念を身につけ、お客様との打ち合わせもスムーズに
導入後に見られた変化
まず経営陣視点での全社的なメリットを挙げると、このようにカードを作成して社内の標準化を進めたことで、「デザインはここまで出来ているね」「お客様の対応がここまで出来ているね」と、一人の人間の行動をさまざまな面から具体的に評価できるようになりました。
プログラム導入以前の評価軸は、極端に言えば「やる気があるかどうか」でした。けれども、それは非常に感情的で大ざっぱな評価軸だったと思います。
若手に関して言えば、成長速度が速くなりました。実感値で言えば、一人前のステージに到達するまで3年かかっていたのが、1年半になった感じでしょうか。社員の定着率も、当然ながら上がりましたね。
また、教えるということは自分のキャリアの棚卸しになります。中堅層は、若手を教えるという行為を通して、気づきが生まれ、自己成長が加速していきます。キャリアが上がっていくと、社内との関わりだけではなく、お客様や協力会社など社外との関わりも増えていきます。そういったステージにも、積極的に取り組んでくれていますね。彼らの職業意識が「制作物を作る『デザイナー』である」というものから「関係者を巻き込んで1つの方向性を作る『ディレクター』である」へと変わりました。行動科学を取り入れて学んだ中で得られた大きな成果だと思います。
お客様との打合せも、非常にスムーズに出来るようになりましたね。クライアントの言っていることって、いわゆる「あいまい言葉」が多いんですよね。「もう少し鮮やかな感じで」とかですね。でも、行動分解という概念を学んで、あいまいな言葉を具体化する質問などを身につけたので、「それは例えばこういうことですか?」といった会話が出来るようになってきましたね。それが中堅層の、いちばん目に見えて成長した部分だと思います。
行動科学はまず初めに習得したい「基本の型」
行動科学の活用状況と今後の構想
それまでは、「やる気」という言葉で篩(ふるい)をかけている感覚でしたが、そうではなく、ひとり一人に合わせて、伝え方・やり方があるんだということがわかりました。結果として1人ひとりの個性も見出せるようになりましたね。
当社では現在、「パートナー制度」という制度を設け、中堅層と若手が1対1の関係で成長をサポートしています。上下関係ではなく、横並びになって育成をサポートしていくという関係で教えていくのですが、その際、カードが非常に役立っています。
行動科学は1つの「型」であり、若手が覚える基礎知識だと思っています。「守破離」で言えば、最初に学ぶべき「守」の部分です。行動科学を学んだことで、私たちは次の「破」の段階に進んだ状況だと捉えています。
「お客様の相談役になろう」というのが、当社のモットー。実は、デザイン会社という分野にありながら、社名に「デザイン」とか「クリエイト」という言葉は入っていないんですよね。我々の仕事は、制作物を作るだけではありません。社名のとおり、「潜在的な想い=インサイト」を把握し、「全体を指揮する=ディレクション」の立場で、仕事をしていきたいと思っています。
「個人」という多様なブランドを、支えられる会社でありたい
最後にメッセージをお願いします。
先日、決算を終えて、2017年から2022年までの中長期事業計画を社員や関係者に発表しました。そこで話をしたんですが、私たちは会社を「表参道のようなブランドショップが建ち並ぶ通りのようにしたい」という思いがあります。会社が上にあるのではなく、個人個人が1つのブランド。会社は、そんな彼らの活動を支えられるような存在でありたいと考えているんです。
現在は不動産広告業界で求められる存在になっていますが、「高付加価値の商品サービス」と「個人のブランド化」を掛け合わせて、より高みのあるステージで仕事できる集団になりたいですね。また、2020年の東京オリンピック終了後は「良い物は残り続けるし、悪い物は淘汰されていく」という二極化が加速すると思います。そのときにも、生き残り、選ばれる存在でありたいと思います。
そのためには、社内ベンチャー制度など、社員が自分のライフステージに合わせて自分の仕事をプロデュースし、それを会社がサポートしていける形を作る必要があると考えています。個人が会社に隷属する時代は、すでに終わりを迎えています。究極的には、「インサイト・ディレクションが会社と個人の関係を変えた」――と言われるような、そんな会社でありたいですね。
井上様、本日は、お忙しい中ありがとうございました。
取材協力:有限会社ジェット